「ライカと歩く」

 
私は好んでツァイスのレンズを使ってきた。
その馴れ初めは、40年前のコンタックスRTSとの出会いに遡る。
 
一眼レフカメラをニコマートから始めた私は、ある日「日本カメラ」の新商品紹介で、ヤシカコンタックスRTSとツァイスプラナー1.4/85mmで撮影された、窓際に座り団扇を持つ女性の写真に衝撃を受けた。
 
当時の旧ヤシカ社は、ドイツの銘機コンタックスを復刻し、レンズはドイツ本国のカールツァイス製と日本国内のライセンス製の二本立てで発売を開始した。
 
学生である私にとって、ツァイスレンズはとても高額で手の出るものではなかったが、其の描写力に併せ、ディスタゴン、プラナー、ゾナー、テレテッサー等のレンズ名の響きがやけに心地よく、この時以来ツァイスレンズ一辺倒のカメラライフが始まった。
 
1、CONTAX RTS、RTSⅡ + ツァイスレンズ
2、ハッセルブラッド503CW + ツァイスレンズ
3、ペンタッックス645NⅡ + レンズアダプター + ハッセルツァイスレンズ
4、ニコンD800E、D810 + ツァイスレンズ
 
これが主な私のツァイス遍歴である。
 
ハッセルブラッドを入手するまでのほんの半年間、ペンタックス645NⅡと 純正ズームレンズ3本で撮影していた時期があるが、ハッセル旧レンズの魅力を知り無理をして買い換えた。その後約10年間は、ハッセル503CW+旧ツァイスレンズ、若しくは、ペンタックス645NⅡにツァイスレンズ用レンズアダプターを装着し撮影を続けた。
 
ライカとの出会いは、大好きな蕎麦の撮影を始めたのがきっかけとなった。
 
当初、RICOH GR Ⅳ、FUJIFILM X20などのコンデジで蕎麦を撮っている内に、食物撮影の楽しさに徐々にはまっていったのである。天候に左右される富士山撮影に比べ、食物撮影は手軽で気楽である。美味しそうに撮れた食物写真は何故か私の撮欲を充し、満足感を与えてくれた。
 
そんなささやかな楽しみが、「もっと美味しそうに蕎麦を撮ってみたい・・・」との願望を目覚めさせていったのである。
 
その後、フジフィルム社の発色に好感を覚え、 FUJIFILM 旧Xpro1+適合ツァイスレンズの組み合わせを思い付いた。早速、余剰機材を整理し実行に移した。 「しかし、結果は大失敗!」
 
ハッセルと大判旧レンズ、フルサイズ機とコシナの単焦点ツァイスレンズに比べ、描写の重厚さ緻密さでは、コンデジ用ツァイスレンズはかなうはずもなかったのである。無理もない話である。
 
そんな最中、ライカのコンデジ、Xvarioの存在が気になり始める。
28mm〜70mmまでのズームレンズを搭載し、比較的ライカにしては購入し易い価格帯に設定された新鋭機である。
 
我々の世代のライカに対する印象はとにかく高価のひと言!
特定の趣味人やプロの持ち物であり、とても手の出せる代物ではなかった。
よってその魅力や優秀性を知る由もなかった。
 
ある日、価格.comのXvario の評価と、実写例を見て感心した。
Web上の写真映像にもかかわらず、とにかく何かが違うのである。
 
私がツァイスレンズを好んだ最大の理由は、その切れ味である。
解像度がありながらコントラストを重んじたエッジの効いた冷ややかなほどに鋭い描写。その条件を十二分に充しながら、尚かつ何かが違うライカの描写。
 
東シナ海の大海原に差し込む雲間からの木漏れ日に、美しく輝く海面の描写を見た瞬間、その理由が理解出来た。
 
「このカメラは、大自然の持つ普遍性とそれに対する畏敬の念をも映し出すことが出来るのだ!」 
 
私は目を疑った。「ツァイス以上かも知れない・・・」
 
「ライカは発見するカメラであり、視神経の思索のための良く切れるナイフのよいうなものだ。」 田中長徳氏のこの言葉がすぐに思い出された。
 
その魂に響く描写力は、ツァイスレンズの3割増し!実写してみての感想である。「化け物」と表現したユーザーもいた。
 
ドイツクラフトマンシップの透徹さと伝統の重みを、爽やかな感慨を持って思い知らされた。
 
 
先日、愛用の機材何点かと交換の形でライカQを手に入れた。
発売以来約一年、2ヶ月待ちが続いたライカの新鋭機であるが、世界需要を満たし、ようやく日本市場に出回り始めたようだ。
 
東京駅ライカ大丸店の店員さんの言葉が思い出される。
 
「ライカはファクトリーではなく、ラボですから・・・」
 
なんと、ライカの手作り思想への拘りを端的に表した言葉であろうか。
 
また、私がコンデジの良さを再認識した最大の理由は、レンズ一体型カメラの利点である撮影時のゴミの混入がないことである。
 
撮像素子が固定されているデジタルカメラでは、フィルム転送時にゴミの除去が可能なフィルムカメラに比べ、撮影時のゴミの混入が付き物で現像時の煩雑なゴミ処理は私を悩ませた。レンズ交換を頻繁にする富士山撮影では尚更である。
 
その制作活動に最も違和感のあるゴミ処理作業からの解放は、私の創作意欲を背中から押し始めた。
 
今回の撮影は、Xvario だけを使用したが、次回はライカQを試したい。