Gaku's strolling

学生時代、下宿の近所の本屋で買った福永武彦(1918〜1979)の小説「海市」に心惹かれた覚えがある。
恋愛など経験のない当時の自分にとっては、未知の世界に足を踏み入れた感覚が妙に新鮮であった。
凝った構成で、愛、死、孤独、罪の意識を題材とする小説世界は、読後、あとを引く満足感で満たさていた。
そこで、今回はその舞台となった、南伊豆町子浦を旅する。
 
<「海市」のあらすじ>
「妻のある画家渋太吉は、旅先の伊豆南端の海村で蜃気楼のように現れた若い女性と恋に落ちる。渋はかって一緒に死ぬ約束をした女性を裏切り、現在の妻とは離婚寸前の状態にある。やがて伊豆で逢った女性は親友の妻、安見子であることが判明するが、渋の安見子への思慕はやみがたく関係を続ける。恋愛のいくつかの相を捉え、愛の不毛さを悟りながら、それでも誰かを愛さずには生きて行けない人間の悲しい性が描かれている。」
 
この小説が書かれた舞台になったのが南伊豆の海村、子浦である。
 
<福永武彦:小説家、詩人、仏文学者>
1954年「草の花」で作家としての地位を確立、堀辰雄の薫陶を受ける。
1961年 学習院大学教授として教鞭をとる傍、「冥府」「廃市」「忘却の河」「海市」など、叙情性豊かな詩的世界のなかに鋭い文革的主題を見据えた作品を発表、1972年「死の島」で日本文学大賞を受賞。
1977年 病床洗礼を受け、クリスチァンになる。
 
<福永武彦の作品>
「草の花」「忘却の河」「死の島」「愛の試み」「廃市」「告別」「冥府」等
 
 
25年前に訪れて以来二度目の訪問であるが、小説の舞台地へのノスタルジックな思いとは別に、今回は他に目的があった。それは西国三十三ケ所の観音霊場を模したとされる、子浦三十三観音に出会うことである。
 
子浦港から、かつて漁をするために潮の流れや風の向きを調べるた眺望の良い山、日和山遊歩道を5分ほど登ると、海底火山の噴出物が侵食でえぐられてできた半洞窟に「三十三観音」と呼ばれる見事な石仏群が安置されている。
 
三十三観音の背後に見られる地層には、火山噴出物が急激に冷やされた際にできる特徴を有するさざれ石(土石流)状の岩が沢山入っていて、海底火山の噴火で作られた地層であることがわかる貴重なジオスポットである。
 
以下に三十三観音の写真を紹介するが、約半数は首等が取れるなど崩壊しており今後の保存が心配な状態である。
京都、奈良の仏像群にも引けを取らない精神性に溢れる見事なお姿は白眉であり、伊豆の秘宝と言っても過言ではない。
 
 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
<寄り道>
春の伊豆散歩にうってつけなスポット、美味と絶景が旅に花を添える。
 
① <海の幸料理、今津や>  
子浦で有名なのは、伊豆屈指の海鮮料理屋「今津や」である。
桑田佳祐さんや多くの著名人が訪れ、海の幸に舌鼓を打った名店である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
② 伊豆の名物弁当、伊豆修善寺駅の「鯵弁当」
テレビ、雑誌他で有名な舞寿司の「鯵弁当」
家族経営で丁寧に作られる、暖かさに満ちたうまし弁当。

 

 

 

 
 
③ 達磨山の「豆桜」
4月下旬、達磨山山頂付近は豆桜の花園に変わる。
朝日に映え色彩を変化させるその美しさは、伊豆を代表する春景色である。

 

 

 
 
4:春の戸田港
高足蟹漁で有名な戸田港