1、月岬 (恋人岬:1月)

 
<Hasselblad 503cw sonnar CF150/4  F5,6 12min   FUJI RVP50>
 
伊豆から眺める富士に共通する美しさは、海、山、里を包み込むその佇まいにある。大寒を迎えた西伊豆の海岸、底冷えする満月の夜にこの光景は姿を現す。
優雅に伸び伸びとした山麓の風光が広がり、厳かなる潮の流れはゆるぎなき秩序を保つ。清澄な冬の大気が空間全体を支配し、見事に静けさを透かしている。

 
月岬

2、氷結 (山中湖:2月)

 
<Hasselblad 503cw Planar CFE 80/2,8   F8 16min   FUJI RVP50>

 

山中湖が全面氷結したのは、22年ぶりのことである。
−20度C以下の極寒日が続いたこの冬、湖面は20cm以上のぶ厚い氷で覆われた。
2月も中旬を過ぎる頃、氷もゆるぎ始め岸辺へ押し寄せ行き場をなくし山のように積み上がった。
満月に照らされたその断面はまるで水晶のように光り輝き、神秘の力に満ちていた。
  

氷結

3、海道の岬(雲見浜:2月)

 
<Pentax645NⅡ Planar  CFE 80/2,8   F5,6 12min  FUJI RVP50>
 
松崎の南海岸、雲見浜の牛着岩、富士の前景としてその美しさは有名である。
千貫門で月夜に撮影をした際、月明かりが岩肌に染み入り鮮やかに岩の造形美が描写されることに驚いた。その後私の興味は岩肌により近づくことのできる雲見浜の夜間撮影に移っていった。狙うは厳冬期の満月の夜、牛着岩を月明かりが照らし始めてから南中までの1時間が勝負である。海も夜半まで適度に荒れ、その後凪ていくその時がチャンスだ。静かな凪夜は波頭の軌跡が白く写らず臨場感に欠けてしまう。この夜、私の予想に反し風は強く波の飛沫を吹き上げている。構図の頼りは夜目に映る富士の雪だけ、眼鏡が塩で曇りファインダーの中の雪が微かにしか見えない、感だけが頼りの荒れる月夜の海岸であった。
 

4、月今宵(山中湖:9月)

 
<Nikon D800E Distagon 2/35 ZF2  F4  2sec  Digital >
 
「月今宵」とは、仲秋の名月の季語である。
西の空に傾き始めた満月は、明け方のうろこ雲を背後から照らし始めた。
雲間に拡散された月の光が淡く全天を支配し、透明感を際立たせている。
 


5、真夜中の雲海(高坐山:11月)

 
<Pentax645NⅡ FA80-160mm/F4,5  F7 12min  FUJI RVP50>
 
11月の下旬、山中湖から発生した霧は忍野の村を埋め尽くす。霧雨が走る車のウィンドーを濡らす。
小高い丘に登るとそこは銀色に輝く雲海の世界。真夜中の星空の下、里の明かりが淡く透過しその正体が姿を現す。
不気味な静寂の中、微かに霧粒の流れる音が闇に響く。
 


6、聖夜(旧農大牧場:2月)


<Hasselblad 503cw Planar CFE80/2,8   F5,6  8min  FUJI RVP50>
 
月明かりの銀世界  
「ぬかずきぬ かしこみて ねむりたもう 夢やすく 輝けり 朗らかに」
 

7、月影(田貫湖:2月)


<Nikon D800E   Planar 1,4/85 ZF2   F8  3sec Digital   >
 
「月影の至らぬ里はなけれども ながむる人の心にぞすむ」
 


8、月凪の牛着岩(雲見浜:1月)


<Pentax645NⅡ Sonnar CF180/4  F5,6 16min  FUJI RVP50>

チャンスは 満月が南中に差し掛かる一時間である
日中からの強風も夜半には静まった
三脚に重しを吊るし 長時間露光の準備に入る
月明かりが富士の積雪を浮き上がらせる
 


9、夜想曲(黄金崎:3月)

 
<Hasselblad 503cw Distagon CF50/4   F5,6  17min   FUJI RVP50>
 
岸壁はプロピライトという花崗岩が風化して出来たもの、夕日に染まる黄金色の岩肌が
有名である。月夜の岸壁の彩を写真に収めたくチャンスを狙うが、暖冬の為冷え込み
が弱くなかなか撮れない。大雨の翌日午前3時頃、南中を過ぎ西に沈む月明かりが岸
壁を照らし始めた。富士の雪が肉眼でも見える。「今だ!」絶壁に立ち、入念にカメラ
をセットする。月光の下で輝くプロピライト、ざわめく波、夜目でも緑と映る岩上の松、紺
碧の海、遠方の岬に打ち寄せる波頭、街の灯、南アルプスの山々、星の軌道、そして
鎮まる富士。伊豆の冬の日、あたかも深夜に奏でられた夜想曲のようであった。
 


10、Lake of Moonlight(山中湖:2月)

 
<Pentax645NⅡ Planar CFE80/2,8   F5,6 16min  FUJI RVP50>
 
凍る湖に立つ。
氷のきしむ音が、不気味に闇に響く。
湖畔の灯りが眩しく光り、鋭く瞳を射す。
霊峰の懐に抱かれ、静かに眠る「さやけき月影の湖」