vol11
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<粋な計らい・・・心打つ対応>
 
「あなたが、展示してある写真の全てを撮ったのですか?」
 
今から8年前の2010年、さる大病院に皇太子殿下(皇太子徳仁親王)が行啓された際、拝謁を賜り戴いたお言葉である。
 
「8月3日、皇太子殿下が当病院をご訪問されます。つきましては、当日、午前10時に正面玄関にお越し下さい。」病院広報課からの手紙であった。
 
この病院で約4年半、富士山写真を展示させて戴いた。玄関広場に3枚、四季ごとに交換し年(計)12枚。夏の模擬祭典時に20枚。秋の展示会に15枚。当時の私の撮影活動は、この展示写真を撮る為に全てが費やされた。全数新作で展示した為、かなりの作業量であった。
 
そんな折、病院からの便りが届いた。
 
皇太子殿下の行啓の目的は、病院に新設された陽子線治療センターの視察にあった。当時、陽子線治療設備は高額の為、全国でも13ケ所しか例がなかった。
 
玄関広場には病院のTOPが勢揃いし、一般ボランティアは私と定期的に演奏会を開いているピアニストの二人だけ、そして専従の病院ボランティア20人程度が、病院スタッフと共に視察を終えられた殿下をお迎えした。
 
殿下は、川勝県知事を伴い、病院TOP から順番に挨拶をして回り私の前にお立ちになった。テレビで拝見するお姿と同じ、物静かでお優しい印象であった。「あなたが、展示してある写真の全てを撮られたのですか?」とご質問になられた。実際は私の写真以外にも展示はされていたが、詳しい説明はその場では不要と判断し、「はい!」と答えた。
 
順番に挨拶を済ませ、最後にボランティアから患者さんの介護用具等の説明を受けた後、殿下はお車にて病院を後にされた。
 
暫くして見送っている私のもとに、広報の責任者の方が近付いて来た。
「後で別館にある特別貴賓室の前で待っていて下さい。」要件はその場で話すことなく立ち去られた。別館ロビーで20分ほど待ったであろうか、責任者の方がやって来て特別貴賓室への入室を促した。部屋自体はそれほど広くないが、いかにも高価そうな皮のソファーが置いてあり、その長椅子部分に座るよう言われた。
 
私の対面に座られた責任者の方は、私が座っている場所を指差し、「そこが先程まで、殿下がお座りになっていた場所です。」と説明してくれた。思わぬ言葉に私は「エッ!」と心の底で驚いた。そしてソファー正面の壁には、私が以前病院に寄贈した *「丸山の東雲」が飾られていた。
 
「殿下はここで病院長と談笑されながら、この写真をご覧になられていました。」
と付け加えた。
 
なんと心憎い計らいであるか。私は病院と責任者の方の心遣いに、心から感服し感謝した。予期せぬ心打つ対応は、日頃の苦労を払拭してくれ、更なる活動の力となった。
 
 

<陽子線治療>
放射線治療の一種。陽子線を照射する治療法。陽子線は元素の中でももっとも軽い水素の原子核である陽子を、サイクルトロンやシンクロサイクルトロンなどの加速装置を用い加速したもの、体内深部に到達して治療効果を発揮する。X線が体内に入るにつれて放射量が徐々に減衰するのに対して、陽子線は体表面近くではエネルギーを放出せず、停止する直前に大線量を放出(線量ピーク)する。さらにX線では病巣付近の正常組織も同等の線量を浴びてしまうが、陽子線は停止位置より奥へ入り込まない為、病巣だけに効率よく線量を集中でき、正常組織や臓器への副作用は少ない。

 
 
 

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「丸山の東雲」:2003年10月3日撮影、丸山林道にて
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「丸山の東雲」:2003年10月3日撮影、丸山林道にて