vol8
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<イエスの医療>
 
東京駅八重洲口からタクシーに乗り聖路加国際病院までは約10分。日野原先生の病院についに来た。「人の一生は神のひと息」思い出深い先生のひと言が脳裏に浮かぶ。
 
写真展の打ち合わせの日がやってきた。期待を胸にルカ像前で担当者と仲介者の二人と待ち合わせ、「どんな人がやってくるのか・・・想像通りの人だろうか?」ひと目見てその期待混じりの不安は払拭された。知性を感じる穏やかなそうな50歳前後の仲介者の男性。如才ない物腰の、品の良い30歳過ぎの女性担当者。「この展示会は上手く行く!」そんな想いが胸をよぎった。
 
一ヶ月前、こんなメールが届いた。「友人が難病で聖路加国際病院に入院しています。どうかあなたの写真展を開き、その友人に写真を見せてやってくれないでしょうか?」
 
「分かりました、お話を進めて下さい。」私は即座に返信のメールを送った。
 
ある企業グループの会報誌に掲載された私の写真を偶然見た方からのお便りであった。ホームページ上で医療施設での展示会開催を公募しているが、初めての開催要請であった。会場は本館と旧館を繋ぐ2階の長い渡り廊下の終着部、日野原先生が理事長時代に創設されたものらしい。ギャラリーの壁には先生の直筆サインのプレートがある。南向きの窓より豊富な自然光が入り、写真の奥行きが浮かび上がる申し分のない会場であった。
 
打ち合わせが済み仲介者からご友人の容態の説明を受ける。50歳過ぎのご婦人であり、つい最近ドナーがみつかり、骨髄移植手術を近々に受けるとの話であった。
 
「上手くいってくれると良いが・・」
来たるべき難関を乗り越えてくれることを願った。
 
病院新館の玄関を入るとすぐに広場があり、スターバックスがその片隅にある。
外来受付はその奥にあり、突き進みエレベータで2階に上がると旧館への渡り廊下に出る、ギャラリーはその突きあたりにある。1日の来院者数は日本でも1〜2位のはずなのに混雑感はない。患者さんにも殺伐とした空気はなく、むしろ整然とし、ゆったりとした雰囲気が漂っていた。キリスト教思想の博愛の精神は勿論、患者第一の思想、有機体として高みを目指し、自らが変わることを常に求め続ける姿勢が素人の私にも見てとれた。今までに関わりがあった医療施設のどこにも感じることのなかった新鮮な感覚であった。
 
「この病院は全てを許すことから始まっている・・・決して人を疑うのではなく、あくまでも信用することから」・・・この雰囲気はそんな理念や思想の結晶ではないだろうか、瞬時にそんな印象を受けた。
 
ある有名地方大学の医局にいた医師から聞いた話がある。「聖路加国際病院で研修医時代を過ごした医師と一緒に仕事をした経験があるが、洗練されたその言葉遣いや所作に感心させられ、それ以来自らの尊大な態度を深く反省し、患者に対する医者としてのあるべき姿を常に考えるようになった」と・・・
 
自分が変わらなければ人は変わらない。
そんな自らの未熟さゆえの謙虚さ。
 
組織を構成する一人一人の考え方の大切さ。
その積み重ねが伝統となり、一流を作り上げる。
 
「イエスの医療」:イエスとは・・・キリストの意味ではなく、「受け入れるイエス」「許すイエス」「自らが変わる努力を続けるイエス」を指す。
 
たった数時間の滞在で、そんな貴重な想いを体験させてくれた、希望溢れる稀有な病院であった。
 
 

<聖路加国際病院>
1901年に創立された東京・築地にある大規模総合病院。2012年に国内で3番目となる国際的な医療施設認証機関であるJCI(Joint Commission International)の認証を取得、QI活動(医療の質を表す指標指定・公開と改善運動)に力を入れる。2015年のOECD(経済開発機構)の日本の医療の質レビューにおいても、「聖路加国際病院で実施している質指標プロジェクトは特に印象的であり、国全体で展開するロールモデルとなりうる」との評価を受けている。これらの活動が評価され、2015年には国際病院連盟の最高位賞である会長賞を受賞した。また、研修医の初期臨床研修施設としても知られ、虎の門病院などと並んで日本で最も医学生の人気の高い研修先のひとつとなっている。

 
写真展開催期間中、在館日以外は伝言帳を置きました。その中から一部を紹介致します。
 

  • 聖路加で働く看護師です、お写真とても感動致しました。期間中、毎日拝見させて戴きます。
  • 素晴らしい写真ですね、忙しい中、胸いっぱいに富士の空気を吸えたような気がします。
  • 素晴らしい日本の風景を拝見させて頂き、心洗われたようです。
  • 「丸山の東雲」「祈り」に神の存在を感じます。一日一日を大切に生きたいと思います。
  • 私は毎日海の見える場所で生活しております。素晴らしい作品ですね、風の流れを感じます。
  • 神様のすごい力を感じる。すばらしいです。力強く、美しく、神々しい富士。海、雲、空、美しいものを見せていただき、ありがとうございます。
  • 初めて拝見しました。圧倒されました、引き込まれました。
  • たまたま通りすがりましたが、足を止め、時間を忘れました。

 
ご覧戴いた皆様のお言葉です。
 
東京で始めての開催であり、静岡以外でどのような評価を受けるか正直不安でした。その不安もご覧戴く方々の眼差しを拝見し払拭されました。
私の活動の唯一報酬はこのような心清らかな心の持ち主との出会いであり、その出会いがいつも私の背中を押してくれます。
 
 
 

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