vol12
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<雲海の里・・・流れる粒子>
 
数ある富士山撮影の中で、カメラマン垂涎の的であり、かつ出会うことが非常に難しいのが、雲海と富士山の組み合わせであろう。撮影するにはまず雲海の発生メカニズムを知悉しないと巡り会うことは叶わない。そういう私も初心者時代はなかなか出会うことが出来ず、ベテランカメラマンに幾度も教えを乞うたものである。雲海とは雲すなわち水蒸気の塊である。発生のメカニズムと具体的撮影術を以下に検証してみよう。
 

  • なぜ雲海は発生するか?

 
水温は大気温の上下変動に大きく影響され、タイムラグをもって大気温に追従する。例えば雲海の発生し易い夏から秋にかけては、まず大気温が下がり始め、次に時間差をもって水温が下がる。その際、暖かい水が冷たい空気にあたって粒子となり水蒸気が発生する。では春から夏はどうだろうか? やはり大気温が先に上がり始めその後、水温が追いかけ上昇する。その際、暖かい空気が冷たい水にあたり粒子となり水蒸気が発生する。大気温が先に変動し続いて水温が追いかける機序はどちらも同じである。
 

  • 雲海が最もが発生し易い時期はいつか?

 
水温と大気温の差が一番激しくなる夏から秋と、春から夏への端境期である。具体的に言うと4月下旬から6月上旬と、10月下旬から12月上旬になる。時間帯は大気温が最も下がる夜明け前から早朝にかけてである。
 

  • 水蒸気の発生源は何であろうか?

 
水蒸気の元になる水源が発生場所の近くに豊富にあることが肝心である。例えば、湖、沼、比較的大きい河川などである。具体的に言うと10月下旬から12月上旬に雲海の発生が多く見られる櫛形林道、丸山林道、池の茶屋林道では、甲府盆地を流れる釜無川が水蒸気の発生源となる。全国的に有名な清水吉原も同様で、盆地状の吉原の里を流れる河川が水蒸気の発生源となる。他方、湖を発生源とするケースもある。有名なスポットは箱根の大観山と忍野の高坐山で、発生源は前者が芦ノ湖、後者が山中湖となる。幻想的な富士山と満月を絡めた組み合わせも両スポットは撮影可能な地理条件である。運が良ければ遭遇出来る可能性を含んでいるので、月の動きを十分に研究し、満月の夜に一度トライしてみる価値がある。
 

  • 気候的にはどうであろうか?

 
山間部や盆地などを低気圧が通過して湿度が高くなったとき、放射冷却によって地表面が冷えそれによって空気が冷やされていく。低気圧通過後、無風状態の場合、冷えた空気はボウル状の地形に留まり更に冷却され続ける。やがて一帯が飽和状態となり、空気中の水分が霧となって発生する。(放射冷却:高温の物体が周囲に電磁波を放射し温度が下がる事。身の回りのあらゆる物において日常的に見られる現象。)
 

  • 最後に、撮影スポットに向かう貴方の心構えはどうだろうか?

 
早朝の雲海の発生を撮影する為には、自宅を深夜に出発するケースが多くなる。
出発後、自宅付近、もしくは撮影スポットへ向かう道すがら、雨が降っていることが多くある。初心者はここが要注意である。現在いる場所、もしくは目的地に向かう途中が雨の場合、撮影地も雨であろうと判断し戻ってしまうことが多々ある、私も何回か経験した。雲海に巡り会いたければ次の事柄を強く肝に命じて欲しい。
 
様々なデータや経験により、今日は目的の撮影地に雲海が出る確率が高いと判断した場合、向かう途中で槍が降っても雹が降っても引き返さないことである。そして、現地に近づき空を仰ぎ、もし厚い雲間から少しでも青空が覗いていたなら迷わず定めた撮影ポイントに駆け上がる事である。雲を突き抜ける標高に達すると、やがてそこには夢にまで見た素晴らしい雲海の世界が広がっている。未明の雲海は紫色に染まり雲の動きは殆どないが、日の出と共に朝日が射し込んだ瞬間、大気は膨張し蠢き始める。雲海の彩は幾重にも変化し、目前で展開する未知の光景は筆舌に尽し難く、感動の渦の中で思わず我を忘れることだろう。それは目的に向かい科学する心を忘れず、強い意志を持ち続け、迷わずその場に立とうと決めた、挑戦者(貴方)への天からのご褒美である。
 
 

黄金郷

<黄金郷:清水吉原 6月>
寝釈迦を彷彿とさせるしなやかな山容 富士の上空にかかる程よい形の雲。雨後の雲海 遥か洋上に陽光を遮る雲のない快晴の夜明け。輝く黄金郷が姿を現わす。
 
 
 
龍雲

<龍雲の章:大観山 11月>
足元まで押し寄せるがごとく躍動する雲海 まるで龍がとぐろを巻いているかのようである。日の出とみるや 芦ノ湖上空の暖気は上昇を始め 湖水の冷気と対流を始めた。夏または冬に向う季節の端境期 大気と湖水の温度差はピークを迎え この雲海のドラマを生む。 
 
 
 
真夜中の雲海

<真夜中の雲海:高坐山 11月>
11月の下旬、山中湖から発生した霧は忍野の里を埋め尽くす。霧雨が走る車のウインドーを濡らす。小高い丘に登るとそこは銀色に輝く雲海の世界。真夜中の星空の下、里の灯りが淡く透過しその正体が姿を現わす。不気味な静寂の中、微かに霧の粒子の流れる音が闇に響く。
 
 
 

<お知らせ>
今回をもって、「岳の独り言」(Part 1)は終了致します。
1年間のご愛読、誠に有難うございました。